はじめに

年齢を重ねると、どうしても濃い味付けを好むようになってきます。私の父親がそうなのですが、薄味だと物足りなく感じてしまうようで「追い醤油」が日課となっています。しかし、健康面を考えると塩分は控えて欲しいものです。そこで今回は、薄味でも美味しく食事を楽しめる工夫やそれをサポートするテクノロジーについてご紹介します。

味覚が薄くなる原因

味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの基本的な味があります。これらの味を感じる器官は舌にある味蕾(みらい)と呼ばれるものです。しかし、加齢とともに味蕾の数は減少していくことがわかっています。また、咀嚼力の低下によって唾液の分泌量が減ると、食べ物の味が感じにくくなります。さらに、亜鉛や鉄などの栄養素が不足すると、味覚が鈍化すると言われています。

薄味でも美味しく食べるための工夫

濃い味付けをしなくても、毎日の食事をおいしく食べられる方法はいくつかあります。

1. 調理方法で工夫する

  • お酢やレモンなどの酸味を使う
  • 昆布やかつお節などのだし汁を使う
  • 香辛料やネギなどの香味野菜で香りをつける

これらの方法によって素材本来の味を引き出し薄味でも満足感のある味わいになります。

調理方法で工夫して薄目の味付けをしている2人

2.味覚を補う商品を使う

近年では、味覚を補う効果のある商品として「塩味やうま味を増幅するスプーン」が開発されています。これは、スプーンから人体に影響がない微弱な電流を流し、口の中に分散している塩味の基となるナトリウムイオンを舌の方へ集めることによって、塩味やうま味が強く感じられるようになります。電流のレベルは4段階で調整可能で、いつも使用しているスプーンと同じように食事をします。 食材本来の味を変えることなく、味の幅を強調できるのが特徴です。そのため、薄味でも満足感のある食事を楽しむことができます。

課題と展望

高齢者の食生活を支える技術は発展途上にあり、以下の課題に取り組むことが重要だと考えています。

  • 安全性: 微弱な電流を使用する技術は、人体への影響について更なる研究が必要です。
  • 使いやすさ: 高齢者でも簡単に操作できるような、使いやすいデザインが求められます。
  • コスト: 高齢者にとって負担にならない価格帯の商品開発が必要です。
  • 認知度向上: 高齢者や介護従事者への認知度向上のための取り組みが必要です。

これらの課題を克服することで、高齢者の食生活を支える技術が、より多くの人々に役立つものとなるでしょう。

高齢者のQOL※向上に貢献する技術開発

高齢者の食生活を支える技術開発は、単に栄養バランスを整えるだけでなく、高齢者の生活の質(QOL)向上にも大きく貢献します。

食事を楽しむことは、単なる栄養摂取以上の意味を持っています。家族や友人と食卓を囲み、会話を楽しむことは、高齢者にとって生きがいとなり、孤独感や社会的な孤立を防ぐ効果も期待できます。

今後、更なる技術開発が進むことで、高齢者がより美味しく、楽しく食事できる環境が整うのを願っています。

※QOL : Quality Of Lifeを省略した言葉です。日本語では「生命や生活の質」と訳されます。高齢化の進む日本では「単に生きるだけではなく充実した人生を過ごすこと」や「自分らしさを保って暮らすこと」という意味で使われている言葉です。

«
»