今回はビジネスにおいて近年注目されている「パーパス」について解説します。
また、パーパスを介護業界と絡めて話を行います。
パーパスとは
パーパス(Purpose)とは「なぜそれをするのか」、「存在する理由」を示す英単語です。経営戦略としてのパーパスは、組織のステークホルダー(利害関係者)を意識した存在意義のことを指します。
介護事業者にとってのステークホルダーは株主、経営のトップ、現場で働くスタッフ、利用者、入居者、ケアマネージャー、地域の方、出資者、その他取引先などが挙げられます。
既にミッションやバリューを作っているという法人もあるかと思います。ミッションやバリューとパーパスは明確に区切るのは難しいですが、ニュアンスとして、ミッションやバリューはこれからこう動くという未来に繋がるのに対し、パーパスは過去から現在までを見つめ直して、社会から見て我々は何者であるのかを指します。
なぜパーパスが今重要視されていているのか?
パーパスが広く認知され、取り組む企業・組織が増えているのには3つの背景があると考えています。
(a)社会の目を意識して経営する必要性の高まり
環境破壊や貧困、資源の保護など現在世界は様々な課題を抱えています。エコやSDGs、サステナブル等といった言葉も広く浸透してきています。その結果従来組織は目先の利益のみを考えてビジネスを行っていれば十分だったのが、そうではなくなりました。自然環境や持続可能性に配慮しながらビジネスを行うことが求められるようになりました。
そして社会を意識した経営はステークホルダーから選ばれる組織である為の条件になりつつあります。
例を上げると、取引先の選定では環境に配慮した活動を行っているところと協業し、求職者は積極的に社会問題へ取り組む企業を選ぶ。また銀行や投資家は出資先を選ぶ為の材料として持続可能性を意識した企業の取り組みを評価します。お金の面でのリターンのみではなく、社会的なインパクトも同時に実現する「インパクト投資」という言葉も生まれました。
組織の利益だけではなく、世界の課題や持続可能性にも目を向けた経営が必要となっています。
(b)ミレニアル世代の影響
ミレニアル世代の影響がパーパスに取り組む企業が増えた背景の1つであると考えています。
そもそもミレニアル世代とは1980~1995年に生まれた世代のことです。
この世代の特徴として挙げられる要素は次の通りです。
- デジタルネイティブである
- モノ(所有)よりコト(体験)を重視する
- 共感によって消費・拡散する傾向がある
- 社会問題への関心が高い
- 健康志向が強い
- ワークライフバランスを重視する
- 副業や独立への関心が高い
- 社会貢献性の高い仕事に興味がある
彼らはインターネットやPC、スマホなどのIT製品に囲まれた環境で育った世代であり、SNSを通じた情報のやり取りが当たり前の世代です。世界の情報が手軽に入手することができ、またSNSのやりとりを通じて情報を発信することや、評価されることに慣れていることで社会を特に意識している世代なのではないかと考察します。
そしてこのミレニアル世代とその更に次の世代であるZ世代(1990年後半~2000年代)に生まれた人が2025年には世界の労働者の3分の2以上を占めると言われています。
つまり、彼らの価値観が世間の大部分を占める時代と言えます。また彼らはSNSを通じて同世代のみならず、他の世代にも影響を与えていると考えられます。
(c)ブランディングメッセージとして利用される
近年、商品やサービスが多く出回り、良い点が模倣されることにより、それぞれの差が見出しにくくなっています。この現象をコモディティ化と言います。商品やサービスそのもので差別化が難しくなった今、取り組む企業が増えているのがブランディングです。ブランディングは理念や価値観、商品やサービスに対する向き合い方などを物語として伝えるものです。
ブランディングメッセージの1つとしてパーパスが利用する企業や組織が多くなり、ブランディングとして利用できると考えた広報の担当者がパーパスを作るということも多いのではないかと考察します。
その他にも新型コロナウイルスの影響、DXなどをパーパスに取り組む理由として挙げられる方もいますが、私は(a)社会の目を意識して経営する必要性の高まり、(b)ミレニアル世代の影響、(c)ブランディングメッセージとして利用されるが大きな影響だと考えています。
パーパスを設けるメリット
パーパスを組織の運営に取り入れるメリットは3つあります。
ステークホルダーからの共感
1つ目はステークホルダーからの共感を得るきっかけになります。
パーパスはステークホルダーが今後チェックする項目の1つになります。投資家や銀行は投資先の選定を行う際に、求職者は就職活動を行う際に、顧客は商品やサービスを選ぶ時にパーパスが1つの判断材料となります。掲げているパーパスに共感をした企業や組織に対しアクションを起こします。
2つ目に従業員のロイヤリティが向上する
パーパスを設定することにより、従業員のロイヤリティが向上する効果が見込まれます。
先にご紹介した通り、パーパスは共感を得るきっかけとなります。それは実際に働く人にも当てはまります。共感を作ることでロイヤリティが高まり、より仕事に積極的になったり、離職率が低くなったりするといった良い影響を与えます。
慢性的な人材不足が課題として挙げられている介護業界ではパーパスが持つこの効果を是非とも利用したいのではないでしょうか。
3つ目に新しいアイデアが生まれる
パーパスを定めることで新しいアイデアが生まれ、商品やサービスに良い影響を与えることがあります。パーパスを定めることにより、組織が何を行うべきなのかがより明確になります。その結果商品やサービスの改良に繋がります。
事例を挙げると、アメリカのドラッグストアCVSはパーパスに「人々の健康への道のりを支援する」と掲げていました。そして 2014年、自社のパーパスに矛盾しているとタバコの販売を停止しました。目先の利益だけを考えた場合、タバコは大きな収入源となります。しかし、この決断によりCVSでタバコを購入していた利用者の38%が禁煙をした可能性があるというCVSの調査結果が発表されました。
参考:CVS公式サイトより翻訳
https://cvshealth.com/news-and-insights/articles/cvs-quits-a-message-from-larry-merlo-president-and-ceo#:~:text=CVS%20Quits%3A%20A%20message%20from%20Larry%20Merlo%2C%20President%20and%20CEO&text=Ending%20the%20sale%20of%20cigarettes,their%20path%20to%20better%20health
この事例からパーパスは、事業を改善するチャンスを見つける手がかりになると言えます。パーパスに反している事業は見直し、よりステークホルダーの為に事業を拡大するきっかけになります。
ここまでパーパスを取り入れる企業や組織が増えてきた背景と、パーパスにより期待される3つの効果についてお伝えしてきました。
地域への貢献が求められる社会福祉法人やスタッフの離職を減らしたい介護事業者はパーパスを取り入れてみてはいかがでしょうか。
次回はパーパスの作り方についてお伝えします。